■ リ ゾ ー ト を 楽 し む ■

【 は じ め に 】

 首都メキシコシティ(連邦直轄地)と31の州からなるメキシコ。国土は日本のおよそ5倍である。地図で見るメキシコは、俗に例えると、イカやタコの“ゲソ”(足)。下がるに連れてだんだんとやせ細る。足元にはベリーズ、グァテマラとの国境線があり、くるりんと曲がった先っぽは、ユカタン半島と呼ばれている。半島と言えばもうひとつ。“ゲソのツケ根”の左端(=カリフォルニア州との国境線)に、まるで大根のヒゲみたいにバハ・カリフォルニア半島がくっついている。細すぎて今にもちぎれそうに見えるこの半島と本土(“ゲソ”)とは、カリフォルニア湾によって隔てられている。“ゲソのツケ根”と“足元”(=計3カ国との国境線)以外、すべて海に面しており、向かって右手にカリブ海を擁する「大西洋」、そして左手には「太平洋」が広がる。とどのつまり、メキシコは海岸線に恵まれた国なのである。

 さて、ここからが本題。このように豊富な海岸線を有するメキシコだが、ラッキーなことに温暖な気候にまで恵まれており、結果として、国際的なリゾート地を多数誕生させることができた。それらは、マヤ、アステカに代表される古代文明の遺跡群と並んで、貴重な国の観光財産である。中でも、特に人気を集めているのが、ユカタン半島の先端(まさに“ゲソの先っぽ”!)にあるカンクンとバハ・カリフォルニア半島の先端(まさに“大根ヒゲの先っぽ”!)にあるロス・カボス。全体的に見ても、やはり隣国・アメリカからの訪問客が圧倒的に多い。

 このコーナーでは、「カリブ海地域」と「太平洋岸」とに分けて、代表的なリゾートを幾つかご紹介する。

【 カ リ ブ 海 リ ゾ ー ト 】
 メキシコ湾とカリブ海の境目に突き出したユカタン半島。頭上に広がるメキシコ湾の先には、アメリカ合衆国(主にフロリダ州、ミシシッピー州)がゴールキーパーのように立ちはだかり、右手に広がるカリブ海を真っすぐ泳いで行くと、やがてキューバに辿り着く。この半島のカリブ海岸沿いと周辺の島が、“カリブ海リゾート”として各国から熱い視線を浴びている。
カンクン (Cancun)
 ユカタン半島の東端(しつこいですが、“ゲソのしっぽ”です)に位置するカンクンは、マヤ語で「ヘビ」を意味している。全長22km、最大幅わずか400mで、カリブ海とニチュプテ湖(Laguna Nichupte)の間をニョロニョロと伸びている。かつては人口100人ほどの小さな漁村にすぎなかったが、1970年代半ば、魅力的な海岸線に着目した政府が開発をスタート。以来、外国資本を積極的に導入しながら、インフラ整備やホテル・娯楽施設の建設が行われてきた。そしていまや、メキシコが世界に誇る最高級リゾート地として君臨するに至っている。ホテルは全部で100件以上。大手旅行代理店がパッケージツアーを扱っているため、近年は日本からのハネムーン・カップルが急増中。現地では、メキシコシティを本拠地とする日系旅行代理店がオフィスを構え、青木建設が筆頭株主のヒルトン・ホテルをはじめ、日本人(または日本語が話せる)スタッフを常駐させるホテルも増えはじめた。また、香水や宝石など、一部対象とはいえ、政府が免税店を許可しているのも“国際色”を意識すればこそ。毎年、海外ミュージシャンが集う“ジャズ・フェスティバル”をはじめ、国際会議やイベントも頻繁に行われている。

 平均気温27℃という常夏の亜熱帯気候もさることながら、その最大の魅力は、やはり限りなく広がるカリブ海と白い砂浜が織り成すコントラスト。透明感あふれるコバルトブルーの海からは、毎年ウミガメが産卵にやってくる。また、観光・娯楽施設の充実度は国内一で、民族舞踊、闘牛観戦(毎週水曜日開催)といった伝統的なものまで楽しめる。マヤ文明の遺跡「チチェン・イッツァ」(Chichen Itza:ピラミッド型神殿が有名)や「トゥルム」(Tulum)をはじめ、海洋パーク「シェルハ」(Xel-Ha)、遺跡と自然がテーマの巨大アミューズメントパーク「シカレ」(Xcaret)、ユニセフの世界自然遺産に認定されたシアン・カーン自然保護区などなど近郊にも見所がいっぱい。場所柄、キューバ行きの航空便やクルーズも運行している。

 尚、カンクンは、ホテル・ゾーン(Zona Hotelera)と市街地(セントロCentro)との2つに分けられ、双方をバスが頻繁に行き交っている。以下、簡単ながら比較を述べてみよう。

◎ホテル・ゾーン

 夜遅くまで安心して出歩けるのが嬉しい。カンクン国際空港からセントロ(市街地)へと伸びるククルカン大通りを挟んで、たいていカリブ海の砂浜沿いにホテルが、ニチュプテ湖沿いに娯楽施設が建ち並んでいる。マリンスポーツ施設、レストラン&バー、ディスコ、複数の大規模なショッピングモールと、高級リゾート地たる要素はほとんどこの地域に集約され、高級ホテルはプライベート・ビーチとプールを完備。小規模ながら「エル・レイ」(El Rey:スペイン語で“国王”。)と呼ばれるマヤ遺跡まである。また、ヒルトン・カンクンが所有するゴルフ場(湖側)は、プレイ中に度々ワニが出没。レストランは、メキシコ料理、シーフード、イタリアンあたりが特に充実しているようだが、ハードロック・カフェやプラネット・ハリウッドを筆頭に、アメリカ系の有名チェーン店も競って看板を並べている。

◎セントロ(ダウンタウン)

地元住民の生活拠点なので、ホテル・ゾーンとは打って変わった庶民的な町並み。トゥルム通り沿いに飲食店やスーパー、銀行などが並ぶ。民芸品市場もあり。全体的にホテルゾーンより物価が安く、中級ホテルや安宿もこの地域にかたまっている。また、住宅街の一角に、現地邦人ご用達の店「ヤマモト」があり、うどんから握りズシまで味わえる。

参考サイト(スペイン語/英語):http://www.cityview.com.mx/


コスメル (Cozumel)
 マヤ語で「ツバメの地」を意味するコスメルは、国内最大の島(長さ53km、幅14km)。とはいえ端から端まで車で約20分。抜群の透明度を誇る世界有数のダイビング・スポットがあり、“ダイバーのメッカ”との呼び声も高い。当然のことながら、各国からのダイバーたちで賑わっている。フェリーで片道1時間弱なので、カンクンから日帰りツアーで訪れる人も多い。国立の自然公園やマヤ遺跡のほか、遺跡の出土品が展示された郷土博物館も見物できる。

参考サイト(スペイン語/英語):http://:www.novenet.com.mx/cancunandriveramaya/cozmel.html


イスラ・ムヘーレス (Isla Mujeres)
 スペイン語で「女たちの島」を意味する、全長が6km、幅約1kmという小さな島。スクーターやゴルフ・カートを借りて島を移動できる。カンクンの5つの港から頻繁に船が出ており、所要時間は30分程度。日帰りでも十分楽しめるが、気に入って長期滞在する人も結構いるらしい。ビーチはもちろん、岬に建つマヤ遺跡、シュノーケリングが堪能できる国立公園、水族館を併設したウミガメ保護センターなども見所のひとつ。

参考サイト(スペイン語/英語):http://www.garrafon.com/

【 太 平 洋 岸 リ ゾ ー ト 】
 海岸線(ビーチ)の長さを考えれば当然なのだが、メキシコのリゾート地は太平洋岸に集中している。海水の透明度ではカリブ海に軍配があがるが、地方色豊かなビーチが多いので、よりメキシコ的な過ごし方が出来る。
ロス・カボス (Los Cabos)
 バハ・カリフォルニア半島の最南端に位置するロス・カボスは、いまや名実ともにカンクンと並ぶ高級リゾート地。「リゾートの楽しみ方」は人それぞれだが、遺跡見物やショッピングなど、1日をのんびり過ごすのがカンクン流だとすれば、ダイビングやトローリングなどアクティブに自然を楽しむのがロス・カボス流といえるかもしれない。何しろ、砂漠にサボテン、断崖にアーチ型の巨大岩といったワイルドな自然はここでしか味わえない。ペリカン・ロックと呼ばれる岩の周辺では、文字どおりペリカンが群れをなし、複数のダイビングポイントで、運が良ければアシカやウミガメと遊泳できる。12月末〜3月の間は、アラスカ沖からコククジラがやってくるので、ホエール・ウォッチングのツアー客で賑わう。近年は日本人観光客も増え、日系の旅行代理店が支店を出している。ダイバーショップには日本人インストラクターの姿も見られる。

 ロス・カボス(Los Cabos)とは「岬」(カボCabo)の複数形。カボ・サン・ルーカス(Cabo San Lucas:直訳すると“聖ルカの岬”)とサン・ホセ・デル・カボ(San Jose del Cabo:直訳すると“岬の聖ヨセフ”)という二つの町を総称している。その距離はおよそ30km。途中、海岸沿いにコリドール(Corridor)と呼ばれる地区があり、高級ホテルが点在している。ショッピングセンターやマリンスポーツセンターといった観光施設はカボ・サン・ルーカスに集中。一方、サンホセ・デル・カボは地元の住民が多く、市庁舎や教会に植民地時代の古い建物と、現地の生活が感じられる。レストランやホテルもあるが、カボ・サン・ルーカスのような華やかさはないため、価格もリーズナブル。

 ロス・カボスと言えばマリンスポーツ! だが、ゴルフ設備もかなり充実している。コリドール地区とサン・ホセ・デル・カボを中心に計5つのゴルフ場があり、うち2つは有名プロ・ゴルファー、ジャック・ニクラウスが設計を手掛けている。海を見下ろすコースや砂漠とサボテンが点在するコースなど、いずれも自然を活かした設計がウリ。砂漠やビーチを馬で散策するのもおもしろい。

参考サイト(英語):http://www.loscabosguide.com/index.html


プエルト・エスコンディード (Puerto Escondido)
 スペイン語で「隠れた港」の意。「プリンシパル湾」(Bahia Principal)沿いに広がる小規模なリゾート地だが、長さが3kmもあるシカテラ・ビーチ(Playa Zicatela)の荒波がサーフィンに適していると評判で、世界中からサーファーが集まる。毎年11月には国際大会が開催されるほか、サーフィンがらみのイベントも多く、オアハカ州も積極的な観光プロモーションを展開している。周辺には遊泳やダイビングに適したビーチが数ヶ所あり、そのうちのひとつ「マスンテ」(Mazunte)にあるウミガメ博物館は、専門家の間では世界的に有名。メキシコの海岸にはよくウミガメが上陸するが、この辺一帯は特に大規模な産卵地で、ウミガメの研究や保護対策の拠点となっている。

参考サイト(スペイン語/英語):http://www.puerto-escondido.com.mx/


ウアトゥルコ (Huatulco)
プエルト・エスコンディードと同じオアハカ州にある、小さな湾「ウアトゥルコ」沿いのリゾート。この辺は波が穏やかなので遊泳向きといえる。規模が小さいので国際的な知名度には欠けるが、メキシコ人の間ではとても人気があり、音楽祭やトライアスロンの国内大会(岩登り、マウンテンバイク、カヌー、滝下りなど複数の競技にまたがって腕を競う)の舞台にもなっている。

参考サイト(スペイン語):http://www.baysofhuatulco.com.mx/


アカプルコ (Acapulco)
 1614年、伊達正宗の命により、ローマを目指して大海原へと飛び出した一行は、途中、この港に上陸した。彼らはその後、歩いてメキシコシティに向かうのだが、オルノス・ビーチに建てられた団長・支倉常長の銅像は今日も潮風に吹かれている。

 ひと昔前は世界的にその名を轟かせ、海外映画も数多く撮影されたアカプルコだが、カンクンをはじめとするリゾート地にお株を奪われてから、かつての華やかさを失いつつある。近年は国内観光客が中心で、訪れた日本人の間では、雰囲気的によく熱海に例えられている。ちょんマゲに、刀を差したサムライの眼には、この町の移り変わりがどう映っているのだろうか。

 とは言え、王座を奪われてもさすがは老舗。高級ホテル、ショッピングモールにレストラン&バーと、リゾート地としての設備は充実しており、今でも度々大規模なイベントの舞台となっている。国内最大手のテレビ局「テレビサ」が主催する「Festival Acapulco」(アカプルコ・フェスティバル)はすでに伝統と化し、その様子が各国で長時間放映される。主にスペイン語圏から有名人アーティストが多数かけつけ、あのフリオ・イグレシアスやリッキー・マティンも常連。

 高さ約45mという「La Quebrada」(ラ・ケブラダ)の断崖で行われるダイビングショーは、この地の代名詞。興行は日に5回で、雨天や強風の場合はあまりにも危険なので中止となる。また、アカプルコでは冬場に闘牛観戦が楽しめる。客室の大半にプライベートプールを完備した高級ホテル「ラス・ブリサス」(Las Brisas)は、ピンクのジープで有名。中心地から少し離れた丘の上に建っているため、移動用として宿泊客に無料で貸与してくれるのだ。窓からはアカプルコ湾が一望できる。テレビはあえて置かない、という、カップルにオススメのこだわりホテルだ。

参考サイト(スペイン語/英語):http://acapulco-cvb.org/


イスタパ&シワタネホ (Ixtapa y Zihuatanejo)
 以前から国内観光客に大評判のリゾート地だったが、1994年公開のハリウッド映画『男が女を愛する時』(メグ・ライアン/アンディ・ガルシア)と『ショーシャンクの空に』(ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン)で取り上げられたことにより、海外からの注目度もアップした。イスタパ(ナワトル語で“女性の地”)とシワタネホ(同じくナワトル語で“白い土地”)という二つの町からなり、どちらも自然とビーチをウリにしている。移動は車で15分程度で、バスが頻繁に行き交っている。

 イスタパは、他のリゾート地と同じく、近代的なホテルやショップ、レストラン&バーなどが建ち並び、高級感に溢れている。一方、シワタネホは依然として田舎の漁村の趣を残しており、安宿が集まっているが、中には、スイートルームを中心とした、客室数の少ない隠れ家的なホテルも数件ある。眺めと雰囲気の良さから、お忍びでやってくる海外スターも少なくないらしい。若者から家族連れまで、庶民の多くは、シワタネホに拠点を置いてイスタパに遊びに行く、というパターンをとっている。豪華さと素朴さ(庶民性)の二本立て、これがこの地の最大の魅力といえよう。

 ちなみに、同じゲレロ州にあるアカプルコとはバスで4時間ほどの距離。便数も多い。バスターミナルはシワタネホにある。

参考サイト(スペイン語/英語):http://ixtapa-zihuatanejo.com/


プエルト・バジャルタ (Puerto Vallarta)
 別荘地としても人気の高いリゾート地で、国内最大のバンデラス湾沿いにはビーチが40km以上も続いている。毎年12月〜4月にやってくるクジラは、観光客のお目当てのひとつ。クアレ川を挟んで、南が旧市街、北が新市街となっている。観光ゾーンは主に北側の新市街で、ビーチ沿いの遊歩道にはレストランやショップが並ぶ。

 プエルト・バジャルタは、著名な芸術家を大勢抱えるハリスコ州の北西部に位置しており、芸術的要素を積極的に取り入れることで、ほかのリゾート地との差別化を図ろうとしている。ギャラリーが多く、絵画、陶芸、彫刻といったアート教室も開かれている。また、民芸品店では近隣に住むウイチョル族の手工芸品が並ぶ。ちなみに、シュールな作風で知られる、この州出身の彫刻家セルヒオ・ブスタマンテは、メキシコシティにある日航ホテル内にもギャラリーを構えている。

 アウトドアとしては、各種マリンスポーツのほか、、馬に乗って近郊の村を訪れたり、ジャングル探検をしたり。ロス・カボス同様、プロ・ゴルファー、ジャック・ニクラウスが設計した本格派のゴルフ・コースも備えている。

 ちなみに、この地にはメキシコが世界に誇る4人組、「Mana」(マナ)のプライベート・スタジオがある。スティングやサンタナと競演したこともあるグアダラハラ州出身のロックバンドは、1997年、海に面した一軒家をスタジオ向けに改造し、アルバム「Suenos Liquidos」(直訳すると“液体の夢”)を収録した。世界26ヶ国で一斉発売されたこのアルバムは、彼らに、メキシコ人ロックバンドとしては初めてのグラミー賞「ラテンロック部門」最優秀賞をもたらした。

参考サイト(スペイン語/英語):http://www.puertovallarta.net/


マサトラン (Mazatlan)

 メキシコの北部・シナロア州に位置する。カリフォルニア湾の入り口という恵まれた立地で、古くから港町として栄えてきた。また、アメリカとの戦争やメキシコ革命といった歴史的な戦いにおいては、常に重要な要塞であった。メキシコ本土とロス・カボスで有名なバハ・カリフォルニア州(ラ・パス発着)をフェリーで結び、豪華客船の停泊地としてもよく利用されている。高級ホテルも多く、「太平洋の真珠」と称されることもあるが、カリブ海の白砂にはやはり敵わない。漁業が発達しており、この地域で水揚げされたエビや魚が国内各地に運ばれる。この地を訪れたら、ぜひ安くて新鮮な魚介類を堪能されたし。毎年3月上旬頃開かれるカーニバルも有名。国内の人気歌手もステージにやってくる。

参考サイト(スペイン語/英語):http://www.mazatlan-lodging.com/