第8話

とうとうカルニータのタコスができあがった。
シルビオ通信

これで今回の連載は終わりです。もし機会がありましたらどこかでお会いしましょう。できれば今度はグラントルタの2号店で。最後に私の好きな作家を紹介しておきます。ポール・オースター、アントニオ・タブッキ、エリザベス・ギルバート…。歌手ではシルビオ・ロドリゲス、パブロ・ミラネス、ホール&オーツ…。何か外人ばっかりですね。それでは、しばしお別れします、読んでくださってありがとうございました。

 あれからちょうど一ヶ月たったある日曜日。僕は友人の女の子を自宅に招いて、ポソレとタコスをふるまうことにした。実際に作ってみると細かなところで何度も立ち止まったが、そのたびになんとか解決策を見つけてゆっくりと前に進むことができた。たとえばトルティージャは普通のフライパンではくっついてしまうのでテフロン加工のものを使った。サルサ・ハポネサは照り焼きソースのことらしいから、みりんと少しのしょう油で代用できそうだ。近くの八百屋ではラディッシュがなく、省かざるをえなかったりもした。コリエンダーは近くのマルエツで半年前まで売っていたのに、ここのところ置かなくなったらしく、乾燥させたパウダー状のもので代用した。


ポソレもなんとか完成。

 ノートに作り方を事細かにメモしていたおかげで、僕はかなりスムーズに仕度を済ませることができた。ちょっとばかり足りないものもあるが、僕は僕なりにグラントルタのポソレとタコスを真似て作った傑作だと自負している。

 日曜日の明るい昼下がりにちょっとおしゃれをして現れた彼女は、一度行っただけでメキシコが大好きになったという人だ。本場の味を知っているだけに食べてもらうまでは少し緊張した。だけど普段あまり感情を表に出さない彼女が満面の笑みで「おいしい」と言って食べてくれたのを見とどけて、僕はグラントルタの弟子入り修行が終わったことを実感したのだ。彼女の指の間からサルサがこぼれ落ちるのを見ながら、

「それっぽいでしょ」

 と僕はなぜかそっけなく言う。たぶん照れ隠しだろう。

 キオもカルニータのタコスにかぶりついた。つづいて僕もかぶりつき、ポソレ・ロホをほおばって、コロナを飲んだ。あっという間に時間は過ぎ去った−−。その日曜日の午後、僕はオアハカであったことをやかましいぐらい一所懸命話した。トルティージャマシーンが壊れていた話やそれを交換しにいったときの話。おじさんに若い奥さんがいた話。犬のせいで足の親指を怪我した話。全部他愛もなくて、でもかけがえのない話ばかりだ。そして彼女は日が暮れる少し前に白い軽自動車に乗って帰っていった。

 終わりはどんなことでも常にさびしく、そして次に向かって忙しくもある。これからの僕は材料の原価計算や店の賃料、立地などをいろいろと調査しなくてはならない。

 グラントルタ二号店、いったいどこにいつ現れることやら。(終わり)


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