一期一会 教会編 (2)

運命(!?)的出会い

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ある日曜日、私は念願叶ってカテドラルのミサに与りました。聖堂の中は人でいっぱいで、もともと人の多いところが苦手な私は、初めてのメキシコでのミサということもあってかなり緊張していました。ミサ自体は日本でも与っていたので流れは分かっているし、言葉が違うくらい平気だと思っていたのですが・・・ぜんぜん違うのです、雰囲気が。聖堂自体が大きいことももちろんあるのでしょうけど、とにかく人が多いので、お祈りなども聖堂が震えるように響くのです。

ミサが進み聖体拝領になりました。聖体拝領とは、簡単に言えば洗礼を受けている人がイエスの体であるパンを司祭(ミサを司式する神父)にもらいに行くことなのですが、人間ウォッチングの好きな私はイスに腰掛けて司祭のもとに並ぶ人たちを見ていました。ボーっと見ていると、たいそうかわいい女の子が私の目にとまりました。メキシコの女性は目鼻立ちがはっきりとしているうえに自分の見せ方も心得ているのでどの人も美しいのですが、その女の子は妙に私の心に留まったのです。

ミサ後にクエルナバカ在住の日本の方と会う約束をしていた私は、その人を探しながら聖堂の近くできょろきょろしていると、突然「日本の方ですか?」とメキシコ人男性に声をかけられました。びっくりした私はとっさに「はい、そうですけど」と答えたものの、動揺は隠せません。そんな私をよそに、落ち着いた声で彼は続けます。
「実は、私の娘が日本語を勉強していて、娘と日本語で話してやってもらえませんか?」

視線を左に移すと、そこにいたのは聖体拝領のときに私の心を捕らえた、かわいらしい女の子でした。びっくりして、自己紹介もそこそこ「実は・・・」と私は切り出しました。私と同じように彼女もミサのときに私を見つけ(それはもちろん私がかわいいからではなく日本人ぽかったからなのですが)、私と話してみたいと思って、お父さんに声をかけてもらったのだそうです。日本語で話せと言われても、目の前にあるのはメキシコ人の顔なので結局ずっとスペイン語で話していたのですが、しばらくすると彼女のお母さんと妹もやってきて、話に花が咲き、翌日の夕食をともにする約束をして別れました。

その日の夜、私はちょっとした不安に襲われました。相手の素性が全くわからないのに、一緒に食事に行って何かあったらどうしよう・・・大丈夫だろうか?・・・。メキシコでは悲しいかな犯罪も多い。あの家族はいい人そうだったけれど、安全である保障は無い。でも、子供に日本語を習わせるくらい経済的に余裕があるんだから、きっと大丈夫・・・。半ば自分に暗示をかけるようにベッドに入りました。

待ち合わせの時間をいくぶんか過ぎて、彼女たちがやってきました。道路が混んでいて遅れてしまったようで、“ごめんなさいね”と何度も言われながら彼女のお父さんの運転する車に乗りこみ、レストランへ。いろいろと話していると、彼女のお父さんはメキシコにある日本企業で働いていて、数年日本で暮らしていたことがあるとか、日本語を勉強しているのは彼女だけでなく、彼女の妹やお母さんも勉強しているとか(折り紙は私よりも上手!)、彼女と私の好きな音楽が一緒だったりとか、食事よりも楽しい会話でおなかがいっぱいになりました。昨日の不安は何処吹く風。この偶然の出会いに“Gracias a Dios!(神様、ありがとう!)”と言いたい気分でした。

私が日本へ発つ前の日の夜に、彼女のお母さんから電話がきて、「気をつけて帰ってね。今度はうちにステイしてね」といわれ、私はただただ「ありがとう」を繰り返しました。本当に、心の中には「ありがとう」しかなかったのです。今では、彼女とはe-mailで連絡を取り合っています。世の中が便利になったおかげですね。この一期一会は、きっと長い長いお付き合いへと変わっていくことでしょう。

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