一期一会 トイレ編 (2)

国立芸術院 〜その2〜

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 前回も紹介した国立芸術院の上部は美術館になっていて、舞台を見終えた後に足を運びました。そこはメキシコを凝縮した壁画で埋め尽くされていました。メキシコの壁画家として有名なディエゴ・リベラ、ダビッド・アルファロ・シケイロス、ホセ・クレメンテ・オロス、ルフィーノ・タマヨの作品を一度に見ることができます。圧巻です。彼らの作品をなまで見たのはその時が初めてだったのですが、その後様々なところで彼らの壁画や絵画を見るにあたり、ただただ圧倒されるばかりの自分に気がつきます。個人的にはフリーダ・カーロが好きだったのですが、最近は彼女の旦那さんのディエゴ・リベラも大好きになりました。見た作品の数からいってもディエゴが一番多いでしょう。

 その美術館を出た後、国立芸術院の1階にある本屋さんへ行きました。それほど大きくはないのですが、様々な本が揃っていてなかなか楽しめます。しかし、そこで再びお手洗いに行きたくなった私は、ぶらぶらしていたメキシコ人のガイドさんを捕まえトイレの場所を聞きだし、いざ出陣!今度は一人だったので、また前回のようなトイレだったらどうしようと思いながら言われた場所へ行ったのですが、作業着を着たおばさんが何やら掃除道具を触っており、間違ったかなと思ってその周囲を歩いたのですが、それらしいものはない。何度通りすぎても作業着のおばさんのいるところは掃除道具置きにしか見えなかったので、近くにいたおばさんに“Donde esta el ban~o?(トイレはどこですか)”と尋ねると、“No se(知らないわ)”と言われてしまい、しょんぼりして歩き出すと彼女は言うのです“I don't understand Spanish.(私、スペイン語分からないの)”と。なるほどと思った私は、もう一度振り返り今度は英語で同じ質問をすると彼女は大きく頷いてトイレの場所を教えてくれました。そこはやはりさっきの作業着のおばさんのいたところでした。作業着のおばさんを無視してさらに先に進むと、そこがトイレだったのです。舞台の休憩時間に行ったトイレとはとても似つかない、ごく普通のお手洗いでした。国立芸術院のすべてのトイレが貴族の使うようなトイレなのではないという事実を知った瞬間でした。

それにしても、自分のスペイン語が相手に通じたと思った直後での“スペイン語わからないの”の一言は正直ショックでした。きっと彼女もとっさのことで、つい“No se(知らないわ)”と言ってしまったのでしょうが、これは大きな誤解を生む表現ですよね。もし、彼女が“スペイン語分からないの”と言ってくれなかったら、この女性はトイレの場所が分からないのだと思った私はまたうろうろして、トイレにたどり着くためにさらに時間が必要になっていたのですから。

 トイレを済ませ、ふたたび本屋さんに戻り、どんな本を買おうかなあと選んでいると日本ではまだその当時は発売されていなかったハリーポッターの新刊がスペイン語バージョンで売られていました。おっ!とは思ったのですが、買ったのは“星の王子様”のスペイン語版。これが読めるくらいになるまでスペイン語を勉強しようと思ったんです。日本語版も持っているのですが(しかも、母のお下がり)、この本は自分にとっても大切な本になりそうです。


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