■■Panchitoのラテン音楽ワールド■■

Archivo #021
銀行もところ変われば...バンコ・ポプラールの好企画アルバム

 中南米の優れた企画内容のCDアルバムにはしばしば銀行のバックアップがある旨記されていることが少なくない。お金のかかる大きな企画がレコード会社主導で制作するのが難しいという現実の証拠でもあるが、公的機関の自文化を尊重する姿勢をよく表わしているとも言える。

 その中でもプエルトリコのバンコ・ポプラールが年1枚のペースで出しているCD(最近はビデオ、DVDも同時発売)はプエルトリコ音楽の現代の名盤ともいえる充実した内容 を誇っている。同銀行のホームページによるとこれまで以下の10点を出してきた(どういうわけか9だけはホームページに出ていない)。

(1) 1993 "Un pueblo que canta"
(2) 1994 "El espiritu de un pueblo"
(3) 1995 "Somos un solo pueblo"
(4) 1996 "Al compas de un sentimiento"
(5) 1997 "Siempre piel canela - La musica de Bobby Capo"
(6) 1998 "Romance del cumbanchero - La musica de Rafael Hernandez"
(7) 1999 "Con la musica por dentro - Cien anos de la historia"
(8) 2000 "Guitarra mia - Un tributo a Jose Feliciano"
(9) 2001 "Raices"
(10) 2002 "Encuentro - R.Draco Rosa, J.L.Guerra, R.Blades"

 私の手元には半分ほどしかないのだが、いずれもプエルトリコ音楽のルーツに根ざした好企画が多い。特定のアーティストに焦点を当てたのが(4)ペドロ・フローレス、(5)ボビー・カポー、(6)ラファエル・エルナンデス、(8)ホセ・フェリシアーノの作品集で、プエルトリコを代表する歌手たちによる新録音で構成されている。

 ペドロ・フローレスとラファエル・エルナンデスはプエルトリコを代表する2大作曲家で、プエルトリコの古典的なボレロのヒット曲はほとんどこの2人が書いたといっても過言ではない。2人とも1930年代からオーケストラや小編成グループを率いてプエルトリコ音楽の普及に大きく貢献した。またエルナンデスは1920年代末にニューヨークに住んでおり、ニューヨーク初のラテンアメリカ移民向けのレコード店を開店した人物でもあった。ボビー・カポーはCDタイトルにもなっている「ニッケ色の肌」(Piel canela)他多数の 作品でも知られる美声歌手で、1950年代を中心に広く中南米で人気を誇った。ホセ・フェリシアーノは一般的には英語で歌う目の不自由なフォーク・シンガーのイメージが強いと思うが、実はプエルトリコの出身で、スペイン語でのボレロの歌唱にもなかなか味のあるところを聞かせてくれる。つい先年も「セニョール・ボレロ」というアルバムを出していた。

 その他も各巻ごとのテーマがあり、(3)はアンディ・ガルシア、リッキー・マーティン 、セリア・クルス、ホセ・ホセなど広くラテン世界のスター参加によるカリブ音楽のパノラマ的内容、(7)は世紀の終わりにあたってプエルトリコ音楽の100年を綴った企画、(9)はプエルトリコのルーツ・ミュージックであるプレナとボンバの特集、(10)はロック〜バラード系のドラコ・ロサ、ドミニカ音楽のスターであるフアン・ルイス・ゲーラ、パナマ出身のサルサ歌手ルベン・ブレイズというカリブ海3大スターの共演という内容。

 いずれも場合もCDの内容に準じたコンサートも開催されているようで、CDやビデオはバンコ・ポプラールの各支店で販売されているようだ。収益金は専門の基金が管理して、音楽学校の運営などに使われているらしく、全体にチャリティーの色彩が濃い。

 このシリーズのCDが日本の輸入盤店に入荷するようになったのは(3)あたりからでは ないかと思うが、一般売りのCDやビデオと異なり、販売期間が短いようで、見た時に買っておかないと短期間で店頭から消えてしまうのが残念だ。最新作(10)のCDとDVD/ビデオは年末に輸入盤店の店頭に並んだようなのでまだしばらくはあるだろう。ドラコ・ロサはロック系のアーティストらしく、不勉強にしてこれまで知らない人物だったが、ルベン・ブレイズとフアン・ルイス・ゲーラはさすがにベテランらしい貫禄。別に新曲を歌うわけではないのだが都会的なセンスの良さが光るのだ。厳密にプエルトリコのアーティストだけに固執するのではなく、広くカリブ海の音楽を視野に入れた「パン・カリブ主義」は近年のカリブ海音楽傾向を象徴したものともいえるだろう。

 それにしても巨額の不良債権を抱えて生き残りだけにやっきになっている某国の銀行とは大違いである。「文化・人間の豊かさ」とはどこにあるのかを考えさせられる。