■■Panchitoのラテン音楽ワールド■■

Archivo #015
中米に響く木の調べ〜マリンバの起源とその名盤

BMG 74321-80339-2 "40 temas originales / LIRA DE SAN CRISTOBAL"
"Las chiapanecas", "Jesusita en Chihuahua", "Dios nunca muere", "La paloma", "Besame mucho〜Que seas feliz"他全40トラック。

テイクオフ TKF-2832「躍動するマリンバ/マリンバ・アルマ・デ・チアパス」
"Camaron pelao", "Capullito de aleli", "Al son de la marimba"他全11トラック

 ラテンアメリカの音楽を特徴づける民俗楽器は数多い。メキシコだけでもギタロン、レキント・ハローチョ、サルテリオ、アルパなど弦楽器を中心にさまざまなお国ぶりを象徴する楽器が存在するが、メキシコのみならず隣国グアテマラの象徴でもある打楽器、マリンバ (marimba) も忘れてはならない。
 実はマリンバのルーツに関しては種々の説があり、「マリンバ」という語はまちがいなくアフリカの語彙であり、現在でもアンゴラには「マリンバ」という名前の村があるという。メキシコ〜中米には、植民地時代に黒人奴隷を経由して入ってきたというのが一般的な説である。スペイン人到着以前に先住民が使っていた楽器テポナストリ(木をくりぬいた木魚〜ウッドブロック系統の打楽器)などとの関連を強調して先住民起源説を説く学者も多いが、少なくとも現存するマリンバの伝統はアフリカ起源と考えてよさそうである。さらにルーツをたどればインドネシアにたどり着くと言われているが(その逆にアフリカからアジアに渡ったと主張する人もいる)、とにかく中米に入ってきたのはアフリカ・ルートだろう。しかしその後中米の黒人人口は減少していったので、マリンバの伝統は先住民系の人々を中心に、メキシコのチアパス州とグアテマラを新たな「本場」として発展を遂げていくことになる。(そう考えるともっと黒人系の多い中南米地域でなぜマリンバが定着しなかったのか謎である。もっともアフリカならどこでもマリンバの伝統があったわけではなく、黒人の出身地域にも左右されたことだろう。)
 初期には音域も狭く、一段だけで半音もなかったマリンバには徐々に改良が加えられ、半音はもちろん、もとはひょうたんだった共鳴のための筒の工夫、そこに豚の皮をつけることで生じる独特のノイズといった音楽的な進化や中米固有の要素が形作られていく。

 中米のマリンバのグループで最も早く海外でその名を知られたのはグアテマラのエルマノス・ウルタード(ウルタード・ブラザーズ)のマリンバ・バンドだろう(息の合った演奏が必要なせいか、マリンバ・バンドのメンバーが一家の兄弟で構成されているケースは非常に多い)。1908年北米公演に出発、その後3年にわたって合衆国中を旅した。1915年に再渡米し30曲以上をコロンビア・レコードに録音、そのレパートリーはオペラの小品からグアテマラ製ワルツまでさまざまだが、中米のマリンバ・バンドによる最初の録音と考えて間違いないだろう。それに続き北米を公演するマリンバ・バンドは増加、そのことが国内での認知にもつながったらしく、1932年にはホルヘ・ウビコ大統領のイニシアティヴによって国立交響楽団、警察軍楽隊とともにマリンバ・バンド「マデラス・デ・ミ・ティエラ」が設立される。マリンバがグアテマラの国家を象徴するものと認められたのだ。その後中米各地のマリンバ・バンドが近隣諸国にも演奏旅行を行うようになり、アルゼンチンでもエルサルバドルのマリンバ・アルマ・サルバドレーニャ、マリンバ・クスカトランなどが成功を収めた記録が残っている。この頃からレコード録音も増加、その後海外からメキシコやグアテマラを訪れる観光客にもマリンバは馴染みの名物となっていく。現在でもマリンバ・バンドのエンターテイメント性が高かったり、外国曲がレパートリーに多く含まれていたりするのは、外国人向けに演奏する機会が多かったことの名残といえるだろう。

 現在かつての名門バンドの録音が聞けるCDは少ないが、「フレネシ」「ペルフィディア」などの名作を作ったことでも知られるメキシコのアルベルト・ドミンゲスが兄アベルと共に率いていたバンド、リラ・デ・サン・クリストバルの1958〜1961年の録音が2枚組で復刻されている(米輸入盤、写真左)。他には、ロス・メカテーロス(ビクター VICP-187 「ビバ・メキシコ」他)とマリンバ・ナンダヤパ(キング KICC5220 「驚異のメキシカン・マリンバ」)の2組がたびたびの日本で公演を行っているのでお馴染みの方もいるだろう。エンターテイメント性という点でメカテーロスはずば抜けている。よりオーセンティックなものでは日本のビクターで独自に録音した、ビクター VICG-60022 「円熟のマリンバ・プーラ/テクラス・デ・グアテマラ」が優秀。ただこれらは発売されてから数年が経過しており、すぐに入手出来るかは保証出来ない。現在間違いなく入手出来る中ではテイクオフ TKF-2832「躍動するマリンバ/フアン・パラシオス&マリンバ・アルマ・デ ・チアパス」がお薦め(写真右)。もう少しポップな線からということであればラテンアメリカ各地の名曲を中心に演奏する日本のグループ、マリンバ・トロピカーナの2枚のアルバム(RESPECT RECORD RES-27「マリンバ・トロピカーナ」、同 RES-35 「ダンサ・イ ・ソル」)が楽しい。
 クラシックのマリンバとは一味も二味も違う中米のマリンバ。アジア発でアフリカに定着、さらに中米に飛び火し、マヤの末裔たちの伝統と化したマリンバは、民俗文化のすばらしい生命力をみせつけてくれる。