Archivo #013
古くはトリオ・ロス・パンチョス、最近ならルイス・ミゲルやチャーリー・サー...キューバで生まれた古風な歌曲ボレロは、ラテンアメリカ世界全体の定番ラヴ・ソングとして100年あまりの命脈を保ち続けている。 植民地時代、スペイン領の中心の一つだったキューバの都市ハバナやサンティアゴ・デ・クーバでは、支配者であるスペイン人と労働力として導入された黒人奴隷とその子孫たちの間の文化接触が早くから始まっていた。その結果、19世紀には、ヨーロッパの流行に黒人の影響が加わったコントラダンサ Contradanza、その発展形で「ハバナのダンス」を意味するアバネラ Habaneraなどのダンス音楽が生まれ、一方トロバドール(吟遊詩人)と呼ばれる人々がスペイン伝来の要素を持ちながらもキューバ独自の歌曲を作っていた(このトロバドールたちが作ったさまざまな形式の歌曲の録音を集めたCDに、オーマガトキ SC-3138「キューバ歌謡創世記の歴史」という日本編集、1995年発売のCDがあった)。この舞曲や歌曲の流れを受けて19世紀末に4分の2拍子の歌曲として登場したのがボレロなのである。ボレロというとクラシックのラヴェルが作曲した「ボレロ」があまりに有名なので、もともとスペインのものだと思っている人も多いが、基本的に別のものである。 そのボレロが初めてレコードになったのは1907年のこと。曲はキューバ最初のトロバドールと言われたホセ・"ペペ"・サンチェス作の「悲しみ」Tristezasで、歌ったのはコリードやコミカルなものを得意としていたメキシコのドゥオ・チーム、アブレゴ&ピカソだった(オリジナル盤のタイトルは Tristezasではなく、Un beso だったそうな。ひょっとしたら彼らはキューバのペペ・サンチェスの作品であることを知らずに聞き覚えで取り上げたのかもしれない)。この録音はこの時点でキューバ音楽がすでにメキシコに入り込んでいたことの証明でもある。この時の録音はメキシコのコレクターズ・レーベルから1990年に発売された Documental AMEF-758508 "Voces eternas del bolero" というLPに復刻されている。マイクのない時代の録音で細かいところまで音が拾えないということもあるが、いたってシンプル。歌詞の内容はかなわぬ恋を歌う切ないものだが、曲調や声のトーンは民謡を歌う調子とさほど変わらない。 この記念すべき曲は残念ながら広く知られる曲とはならず他の録音もほとんどなかったのだが、2001年に日本のビクターから発売された Victor VICG60438 「キューバのうた」というCDで、ドゥオ・ボセス・デル・カネイの歌う同曲が冒頭に収録されている。07年録音よりはリズミックな処理だが、味わいは古風で、ハバナやメキシコ・シティのナイト・クラブで次第に都会化していった今のボレロの姿とは一味違ったものを感じさせてくれる。 以前紹介したユカタン音楽の古典的録音(残念ながら現在あのCDを取り扱うところはなくなってしまった)と合わせて聞けば、ラテンアメリカのラヴ・ソングの根底に流れる伝統が見えてくるはずだ。 |
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