■■Panchitoのラテン音楽ワールド■■

Archivo #012
クンビアは世界を巡る(2)アルゼンチン&ペルー:クンビアの土着化と変容

SONY/Columbia(Argentina) 2-470110

20 grandes exitos

Cuarteto Imperial

Cumbia sobre el mar / Adios adios corazon / El caiman / De Colombia a la Argentina他全20曲

Colibri(Peru) PN-COL-0510017.6

Corazon andino

Los Shapis (1989)

Aguita clara / Huaylash macho / La moneda / El reproche他全11曲

 前回紹介のカルメン・リベロ楽団がメキシコで「赤いスカートのクンビア」をヒットさせていたころ、アルゼンチンでもクンビアがヒットチャートに登場していた。アルゼンチンで当たったのは、カルメン・リベロと同じくCBS専属のクアルテート・インペリアル。コロンビア・マニサレス出身の3人とメデジン出身の1人からなるグループで1959年にコロンビアで結成、中南米を流れ流れてアルゼンチンに到達、そこで大成功したのである。アコーディオンがサウンドの中心にあり、フルバンド編成のカルメン・リベロよりはかなり本場のフィーリングを伝えている。「トリニダード」「海のクンビア」などがヒット、その後も長くアルゼンチンで活動した。日本ではコロムビア YS-462「クンビアの王様、クヮルテート・インペリアル」が出ている。

 インペリアルに続いたのがコロンビア人2名、アルゼンチン人、コスタリカ人、チリ人、ペルー人各1名づつから編成される6人の混成チーム(ブエノスアイレスに留学で来ていた学生が中心だった)ロス・ワワンコ(Los Wawanco)。「漁師のクンビア」(El pescador) 、「丸木船」(La piragua)などをヒットさせ、クアルテート・インペリアルの人気をしのぐほどの勢いで以降6年間毎年ベストセラーに与えられる「テンプロ・デ・オロ」賞を受賞。インペリアルとともにパーティー・ミュージックの定番として今も親しまれ続けている(ロス・ワワンコのリーダー、エルナン・ロハスはウルグアイなど各地でソロ活動を続けた後、昨年10月にコロンビアで亡くなった)。日本でも東芝からロス・ワワンコのLPは2枚発売されたが(「ロース・ワワンコの登場」「ロース・ワワンコ『丸木舟』を歌う」)、いずれも1970年代に入ってからのことだった。

 アルゼンチンでのクンビアの定着度はなかなか高く、後にすぐれた現代タンゴ歌曲の作曲家にもなり、近年ではボレロを中心にしたショウでも成功を収めたアルゼンチンの歌手チコ・ノバーロ (Chico Novarro)の最初のヒット曲が「オランウータン」(El orangutan) 、「カメレオン」(El camaleon)というクンビアだった(発売当時後者はメレンゲと表記されていたが、今ではクンビアのスタンダードと化している)。それらを含んだアルバム "Zoologicamente"(logicamente=「理論的に」と zoologico=「動物園」を足した新語。上記ヒット2曲が動物ものだったことにちなんだ)は大ヒットとなった。

 アルゼンチンにおけるクンビア土着化のもう一つの姿として「クアルテートの音楽」(La musica del cuarteto)というのがある。1940年代に結成されたコルドバの人気ダンス・バンド、クアルテート・レオに由来する音楽で、当初のレパートリーはフォックストロット、スペイン系のパソドブレ、イタリア系のタランテラなどタンゴ以外は何でも弾くバンドだったのだが、このバンドの女性ピアニストの弾くシンコペーションが独特で("tunga tunga" と現地で呼ばれている)、その "ノリ" を加味したダンス音楽を総称して「クアルテートの音楽」と呼ぶようになったのだ。1964〜65年にアルゼンチンでクンビアがヒットしてから、クンビアはクアルテートのスタイルに欠かせない音楽となり、その後は「クアルテートの音楽」といえばクンビアとほぼ同義語になるほどポピュラーなものに変化した。首都ブエノスアイレスの週末のディスコでもクンビア系はなかなか人気だと聞く。

 クンビアが強固に定着したもう一つの国にペルーがある。他の中南米諸国同様、ペルーにもマンボ時代からフレディ・ロランド、エンリケ・リンチ、ピーター・デリスなどトロピカル・リズムを演奏する楽団がおり(驚いたことに3人ともアルゼンチン人!)、クンビアもそれらのオーケストラのカヴァーによって、ペルーに浸透していく(そのうち日本でもシングル盤が1枚だけ発売されたらしい)。その人気は細々と持続するが、1980年代末になってニュースタイルのクンビア「チチャ」(Chicha)の登場によって新たな人気を獲得する。チチャとはペルーでポピュラーな発酵酒のこと。南米で「役立たず」というニュアンスで「ニ・チチャ・ニ・リモナ」(ni chicha ni limona =チチャにもレモネードにもなりゃしない)というフレーズがあるが、そこからもわかるようにいわゆる安酒の部類である。飲み物の方も音楽の方もチチャの支持者は貧困層で、特に1980年代ペルーの地方部から都会に新たに出てきた労働者が多かった。彼らは都会的なクンビアに馴染めず、そこに慣れ親しんだアンデスの伝統的なメロディ・ラインを乗っけて「チチャ」と名づけたのだ(「クンビア・アンディーナ」という別名もある)。チチャを有名にしたのはロス・シャピス(Los Shapis)というグループで、一見チープな音作りながら、チチャ(音楽&酒)を好む層の趣味を見事に表したお祭り音楽である。その後もチチャの人気は続いているようだ。

 上流階級〜中産階級に白い目で見られながらも、根強くパーティー・ミュージックの本質である「単純でも楽しいければ良い」という道を突き進むクンビアはある意味ダンス・ミュージックの真髄なのかもしれない。