■■Panchitoのラテン音楽ワールド■■

Archivo #003
70年前のコマーシャル・ソング〜ペルー・グアノ宣伝歌

オーゴン・レコード(AUGON)
1289/1290 (78回転SP盤)
ペルーグアノ宣傳歌(上)(下)
(越後獅子替歌)
唄:淺草勝江 
三弦:杵屋可津壽社中 
ピアノ入

 突然だが今回はSP盤のお話(SP盤とは1950年代以前のもので、シェラックという硬くて割れやすい材質でできた78回転のレコード)。最近は忙しくて回数が減ったが、時間のある時にはよく中古レコード屋めぐりをしていた。もちろん基本的にラテンアメリカ関係以外はチェックしないのだが、ある日ふと気が向いて「邦楽・その他」のSP盤を見ていた時、そこに予想外の「ペルー」の文字を発見。よくわからなかったが面白そうなので購入して帰った。
 あらためてレーベルをよく見れば「ペルーグアノ宣伝歌」とある。「グアノ」とは何か? スペイン語で guanoと書くもので、辞書には「鳥糞石」とある。guanayと呼ばれる海鳥の糞が堆積し固まったもので、インカ文明の時代からリン酸肥料として重宝されてものらしい。現在でも有機肥料として使われているようだ(成分は異なるようだが、コウモリの糞によるコウモリ・グアノというのもあるらしい)。

 グアノは1840年頃からヨーロッパで重宝されるようになり、一時期はペルー、ボリビア、チリの経済を支え、その領有権を争って戦争にまで発展したほどの天然資源だった。このレコードはそのグアノが日本に本格的に輸入されるようになった頃、日本の農村の人たちに買ってもらおうと業者が制作したものと推測出来る。時代はおそらく昭和1ケタ代、浅草勝江が歌っており、伴奏は三弦(三味線と同じものだろう)で「ピアノ入」と記されているのが面白い。洋楽器と和楽器の合同演奏は「和洋合奏」と呼ばれ、当時レコードなどにも時々見られるスタイルだった(この録音ではピアノはほとんど目立たないが)。曲はオリジナルではなく、長唄「越後獅子」の替え歌。農村向けにはなじみの曲が必要だったのだろう。歌詞カードが失われており、古い録音で聞き取りにくいが、とりあえずわかった範囲で歌詞を挙げてみよう。

(A面)御国のためだエ/自慢は言わねど/ペルーのグアノはよくよくよく/ええ効くよ、買いなさい/買わぬは日本のぼんくらよ/どこの国でも良い品来たと/待ちに待たれて売れていく/さあさ、買いましょうぞ/グアノのお陰でここじゃ豊年万作よ/歌いはやしてグアノを売りましょう
(B面)見渡せば、見渡せば西も東も稲の山/日暮にも人の山、人の山/ふじをつる(?)ふじをつる黄金の波も絶え間なく/グアノの効きめ、おもしろや、おもしろや/続く注文、日に来る、日に来ると

 昔はこうした宣伝歌を引っ提げて農村へいって物を売り歩くことも珍しくはなかったようで、蓄音機自体が珍しいのでレコードをかければそれだけでも人が集まってくるし、蓄音機のあるような豪農の家に置いてくれば隣近所にも聞こえるということだったらしい。当時の日本で中南米産であることを強調して売られていた商品など他にあったのだろうか? 何しろ日本からの移民が本格的に始まったばかりという時期の話である。それにしても今となっては「越後獅子」と「ペルー」というシュールな組み合わせがおかしい。意味も分からず聞き覚えで歌った子供たちもいたかと思うと微笑ましいものがある。