オトキータのメキシコ運転日記(1)


私がメキシコシティを車で走るようになって3ヶ月。

何だか、自由自在に乗りこなしているように受けとれるかもしれないので、誤解のないように言っておこう。“家と会社をなんとか往復できるようになって3ヶ月。”まだ生き延びている私。

しかし、愛車の黒のカブトムシ〔*ドイツはフォルクス・ワーゲン社のセダン。メキシコで生産されている為、国内市場で一番安い車。〕は、少しずつではあるが着実に、あの新車だけが放つ輝きを失ってきている。(早い話が、ぶつける度に塗装し直すから色がくすんできた。)悲しいかな、黒豹のように優雅であったボディにも凹凸が…。この世はまさに“ああ無情”である。
でもね、外見は問題ではないのだ。大切なのは「中身」。私のワイルドな運転に耐えられる、その強靭なエンジンなのだから。

そもそも、自分でハンドルを握ることは一生ないだろう、と確信していた私が、ここメキシコで、ドライバーとしての華々しいデビュー(?)を飾るに至った背景には、父の50歳を過ぎての画期的な免許取得があった。彼の熱い思いと涙ぐましい努力を時折聞かされているうちに、もしかして自分も…という気になっていったのである。

とはいえ私の場合、「免許取得」ではなく「免許購入」であった。悪魔の甘いささやきに負け(?)、50ペソ札を役場のおばちゃんの手に握らせて、試験なしで手に入れたのだから…。父親のそれと一緒にしちゃ失礼というもの。
あぁ、日本にいた頃の、あの清らかな水のように澄んでいた私の心。真っ当な大人になるのってムズカシイのね。この世は“誘惑”で溢れている。

とにもかくにも、名ドライバーとしての修行の日々が始まった。
クワバラ、クワバラと唱えながら、オトキータ、黒のカブトムシに乗って、今日もさっそうとメキシコシティをゆく。

(2)に続く

        


このページのトップに戻る

エッセイコーナーのトップに戻る

トップページに戻る