エムカとの日々 

−エムキータを新しいアパートに連れていく!の巻−

ある土曜日の朝。私は、随分前から正式に借りているにもかかわらず、一度も寝泊まりしたことのない我がアパートにエムカを連れて行った。

めったに車に乗せてもらえないエムカは、興奮気味で窓の外から顔を出している。信号待ちをする度に、
「ママー! 見て見て! あの犬カワイ〜!」
なんて声が聞こえ、ハンドルをしかと握り締めながらも、思わずニヤケル母。自分がカワイイと自覚している(?)エムカは、愛敬よくシッポを振ってそれに応えている。あぁ、何てオメデタイ。

30分程で無事目的地へと到着。アパートの正面に車を停めてドアを開けたが、エムカはなかなか降りようとしない。見慣れない場所なのでちょっぴりナーバスになっているようだ。やれやれ、うちのエムキータは感受性が強いからねぇ…。
後部座席にもぐり、エムカをぐいと引っ張り出す。アラームをオンにして、後からエムカがついて来るのを確かめつつ階段を登り、アパートの中へ。部屋中、クンクンと熱心に匂いを嗅ぎまわるエムカ。やはり落ち着かない様子。

「ここが私達の新居になるんだよ」
という私に、チラリとおなさけ程度の視線を投げかけると、またうろうろと歩き回るエムカであった。

さて、休日だというのにわざわざ早起きをしてやって来たのは他でもない、ガスのタンクを買うため。週末しかそれを買うチャンスがない私は、この日に賭けていた。かと言って、必ずしもガス売りのトラックが通るという保証はない。エムカとじゃれながら待つこと数時間。
「ガース! ガースー!」
待ちわびていた雄たけびが聞こえてきた。
(よかったぁ。)
階段をかけ降りると、すかさずエムカもついて来る。

タンクを2本ゲットして一安心。これでお湯が出る。ありがたみを噛み締めたところで、近所の探索をすることにした。普段は鎖なしで散歩に連れて行くのだが、今回は初めての場所だし、大通りを横切らないといけないので、鎖でつなぐ。見慣れない景色ばかりの中、エムカは心細げにのろのろと歩く。ホント、母親に似て気が小さいんだから。時折、よその犬に吠えられ、ビクつきながらも探索は続いた。

夕方、一旦アパートに戻ってひと休みした後、買い物に行くことに。エムカは置いて行くつもりが、クーン、クーン…といつまでも鳴き止まない。(やれやれ。)仕方なく連れていく。

5分程でスーパーに到着するも、はたして誰にエムカをあずけたものか…。ふと、白髪を三つ編みにした、浅黒いおばあちゃんが目に入った。道端にペタリと座り込み、薄いベニヤ板の台に大小色とりどりのお菓子を並べて売っている。

「あのぉ、ちょっとウチの犬見ててくれます?」
おばあちゃんはニッコリ笑って頷いた。
「グラシアス。(ありがとう)」
エムカを柱にくくりつけ、スーパーの入り口へと向かう。
クーン、クーン、ク〜〜ン…。 
背後でエムカの声がする。

1時間後。 
ホウキが突き出た買い物袋を手に店から出てきた私を見つけるやいなや、お約束のように“お漏らし”をするエムカ。狂ったようにシッポ振り、これまたものすごい勢いでぐるぐると回る。やがて柱に結び付けられた皮ひもが足が絡まりクーン、クーンと切なげに訴える。

「まぁまぁ。ほんと、賢いワンちゃんやねえ。飼い主がちゃんとわかるなんて。」
「いやいや、それほどでも…。あ、おばあちゃん。これとそれと、あ、そこのチョコレートバーも下さい…。全部でおいくら?」
口元だけでなく、財布のヒモまでゆるくなる親バカ・オトキータでありました。

  


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