エムカとの日々(序章)−エムカがやって来た!!−

1995年12月25日。晴れ。

離れで寝ていた私とロサウラを起こすべく、電話のベルが鳴った。気だるく起き上がって時計を見ると、もうお昼過ぎ。前夜のアビラ家&親戚一同総動員40名あまりで行われた、恒例のクリスマスパーティが終わって眠りについたのは、明け方の4時過ぎであった。まだまだ眠り足りない気もするが、少なくとも8時間は熟睡したことになる。

ロサウラがよろよろと起きて受話器をとる。

「ブエノ…」(もしもし)

相手は彼女の甥、ルイスであった。

ここ数日、食堂のツリーの下に山積みになっていたプレゼントたち。その中身、とりわけ“マジックで自分の名前が書かれてある包み”を早く開けたくて、子供たちは早起きしてやって来たらしい。家族全員が揃わないと開封できないことになっているので、一向に起きてこない私たちにしびれを切らした彼は、ご丁寧にも“愛のモーニングコール”をかけてきたのだ。(やれやれ…。)子供心を察した心優しいお姉さま二人。ふらついた足取りで母屋へと向かう。

みんなで遅い朝食(前の晩の残りもの)をとった後、いよいよプレゼントが配られることに。子供たちは興奮のあまり、落ち着かない様子。アビラ家の偉大なる仕切屋・ロサウラの指揮の下、セレモニーは幕を開けた。

ロサウラが最初に目にした包みを拾い上げる。

「タティアナおばさん、マヌエルおじさんからイスラエルに!」

プレゼントを受け取ったら、10秒以内にその中身を取り出さないといけない。それ以上かかった場合、プレゼントはひとまず没収、となる。遊び心で生み出されたルールだが、8才のイスラエルはまさに真剣そのもの。投げ出された包みをしかとキャッチするやいなや、おお慌てで剥がしにかかる。

ビリ。ビリビリビリ〜。何て大胆な…。無残にも切り裂かれるサンタとその仲間たち。めでたく時間内に中身を取り出すことに成功。彼は笑いながら、みんなに中身−靴下2足−を披露する。

「お次はスシーおばさんからエリックに!」

みんなが大声で数えはじめる。

「ウノ! ドス! トレス!...(いち、に、さん...)」

ビリビリビリ〜〜〜。

こうして次々と早いテンポでプレゼントは開封されていく。

有り難いことに、私もたくさん受け取った。ホセお父さん&シルビアお母さんからマフラー。タティアナ(アビラ家の3女)&マヌエル夫婦、アラセリ(アビラ家の長女)&アルトゥロ夫婦からは、それぞれセーターを。そしてロサウラ(アビラ家の末娘)からは、当時、巷で大ブレイクしていたエンリケ・イグレシアス(高島忠男夫妻の憧れ、スペイン人歌手の大御所フリオ・イグレシアスの息子。※「コトバ」を読むでも取り上げてます)のデビューCD、など。

各自、プレゼントを手に会話が弾む。こうしてセレモニーはつつがなく幕を下ろしたかにみえたその時、

「私たちからオトキータへのプレゼントが残ってた!」

カルラが思い出したように叫んだ。

そばにいた夫のぺぺ(アビラ家の長男)が頷く。みんなが目を閉じるようにと言うので、何が何だか訳のわからぬまま従うと、今度は両手を広げろ、と言う。私はこのまぬけな状態で数分間待たされた。

「もうい〜よー!」 

子供たちの嬉しそうな声。ふさふさとした毛の感触。目を開けると、私の手の中に、真っ赤なリボンを首につけたコッカー・スパニエルの子犬がいた!

あまりにも思いがけない贈り物に、私は暫くの間、茫然とその子犬を眺めていた。きっとこいつは、電池で動く精巧なぬいぐるみに違いない、なんて考えながら。

  


このページのトップに戻る

エッセイコーナーのトップに戻る

トップページに戻る