■■ スパングリッシュSpanglish - 米国の新しい言語は定着するか (1) ■■

今世界にはさまざまな言語が使用され、およそ6000語が存在しているそうです。しかし悲しいことに、その半数以上は21世紀の末には消滅してしまう可能性が高いと言われています。その中でこれからますます言語勢力を伸ばす言葉はいくつかありますが、使用人口の規模から言えば英語を筆頭に、中国語、アラビア語、スペイン語などがあげられるでしょう。

「英語は、今後、母国語以外の人が話す共通語としてその重要性をさらに増し、10年後には30億人が使用する」という記事が、米国の有力週刊誌につい最近報じられました。興味深いことに、こうした英語人口の拡大に伴い、各国語と融合した新しい英語がぞくぞく登場しています。タガログ語が入り込んだイングログ(Englog)、ヒンディーごと混じり合ったヒングリッシュ(Hinglish)、日本のコピーライターが発明した英語ネイティブには通じないジャプリッシュ(Japlish)などが存在します。

では今回は、今や米国のマイノリティーグループのトップに躍り出て、消費市場を支えているヒスパニックが話すスパングリッシュ(Spanglish)について、少し考えてみたいと思います。

言語ほど文化の変化を示す役に立つ道具は他にありません。英語は米国の公用語ですが、今日のアメリカで人々が最も話す2つの言葉 - 英語とスペイン語をブレンドした新しい言語 - スパングリッシュを無視しては、今日のアメリカの正しい姿や米国で急成長しているラティノ文化を理解することは不可能です。

非公式の第2言語であるスペイン語は米国人にとって、西海岸から東海岸までの全米各地でテレビ・ラジオで放送されるばかりではなく、多数のスペイン語による新聞・雑誌が販売され、町中や教室で目にしたり耳にする最も身近な外国語です。

ところが奇妙なことに、エスパニョルは、イベリア半島で生まれた本来の形式では米国には伝わらなっかたのです。その代わり、全く新しい変質した形で入っていったのです。すなわち、驚くほどクリエイティブなコミュニケーションの道具として発達し、Spanglish として今日知られるようになりました。

なぜかと言えば、人口統計上の劇的な変化、グローバリゼーションなどの原因の他に、特に私が挙げたいのは、全米を席巻している新たな「ラテンフィーバー」現象です。本来、ラテン文化とはスペイン系の子孫によって受け継がれるものですが、米国に住む他の人々をも含むものになり、ラテン・アメリカ全体やスペインさえも巻き込む共通の価値観に発展したのです。

ここで当然論争の的となるのは、リオ・グランデ川の北で話される英語以外の言葉を禁止しようと目論む支持者の言語である英語を、スパングリッシュが凌駕することです。また同じように、マドリッドにあるスペイン国立言語アカデミーの擁護者は、このSpanglishは長く歴史のあるすばらしいスペイン語の「がん」になっていると考えています。

"Spanglish: The Making of a New American Language"という書籍を著し、ラテン・アメリカ文化を専門とするAmherst 大学教授であるIlan Stavans氏はこう言っています。「米国には、英語、スペイン語、スパングリッシュを話す人々は多数存在する。今日では、学者達は毛嫌いするが、最近になってようやく政治家が意識するようになった。さらに、詩人、小説家や評論家が、スパングリッシュは米国の人口の多数を占める人たちの精神を理解する上で鍵になると思うようになった。」

また、こうも付け加えている。「ラティーノは英語を必死に学んでいる。しかし、このことは自分の本来の言語を犠牲にしたり、あるいは、英語との中間に位置するスパングリッシュという新しい言葉をあきらめるべきだ、ということを意味しているのではない。」

言い換えれば、変化を通じて言語は生き続けるのです。そして、その言葉が生き残るにはアカデミックな面に頼ることではなく、米国人とは何かを表現し人々が集まる家庭、学校や職場、さらに音楽、テレビ、文学などの娯楽や文化面でどう浸透していくかにかかっています。

日本でしか通じない和製英語とは根本的な違いがあり、結論的に言えば、米国ヒスパニック文化に深く根ざした社会現象で、今後さらに若者を中心に定着ししそうな勢いでますます進化するとらえるべきでしょう。残念ながら、2004年末に米国で公開された映画"Spanglish"は、まだ日本では未公開です。(次回へ続く)


つづく