Archivo #001 『苺とチョコレート』
(原題 Fresa y Chocolate)

基礎データ
1993年/110分/キューバ(メキシコ、スペイン合作)
'93新ラテンアメリカ映画祭作品賞他8部門 '94ベルリン国際映画祭銀熊賞
監督 トマス・グティエレス・アレア、フアン・カルロス・タビオ
出演 ホルヘ・ぺルゴリア ウラジミール・クルス ミルタ・イバラ フランシスコ・ガトルノ

【あらすじ】

キューバ革命を信奉する生真面目な青年ダビド(ウラディミール・クルス)と、同性愛者で芸術を愛するインテリ男ディエゴ(ホルヘ・ベルゴリア)との友情の物語。

舞台は(おそらく)80年代のハバナ。失恋の悲しみに暮れるダビドの前に突然現れた苺のアイスリームを注文する男。彼は同性愛者であるということが理由で反革命分子と見なされ、社会主義体制下で「表現の自由」の制約に苦悩するディエゴだった。ダビドは政治的思想やゲイに対する偏見から最初はディエゴに反発するが、共産主義青年同盟の使命から彼を監視するうちに次第に彼の人間性や彼を取り巻くものに惹かれ心を通わせていくのだが・・・

ダビドの心の成長を軸に偏見や社会的価値観にとらわれない真の自由とは何かを キューバの名匠トマス・グティエレスが、ユーモラスかつ感動的に描きだしています。

【鑑賞メモ】

今年日本でも劇場公開された「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(ヴィム・ヴェンダース監督)のヒットで世界中でブレイク(?)中のキューバ。90年代に観光部門を中心にヨーロッパ資本の導入を進め、なんとかソ連崩壊後の経済的危機を乗り越えつつあるようですが、物語は、ベルリンの壁が崩れる前のちょっぴり閉塞感ただよう社会情勢を映し出しています。

例えば映画に出てくる、女性ナンシー(ミルタ・イバラ)。隣組の見張り役とは表向きの顔で闇市でドルを稼いでいる彼女は、キューバ革命(1959年)後のソ連共産主義をモデルにした政治体制と、経済的困窮の中で「二重のモラルスタンダード(Doble Moral)」を持って生きていかなくてはならないキューバ人の姿をリアルに体現しています。 ちなみに彼女の部屋にあったビートルズのポスター。今となっては信じられないような話ですが、キューバでは西側の音楽ということで禁じられていた時代もあったのです。

「苺とチョコレート」。この映画のタイトルは、主人公の二人が最初に出会ったハバナの人気アイスクリーム店「コッペリア」で、ディエゴが苺、ダビドがチョコレートを食べているところに由来してます。なんでも、キューバでは苺のアイスクリームを食べる男=同性愛者・・だとか。

【独り言】

美しいハバナの町並みもさることながら、この映画の最大の見どころは、ディエゴ役のホルヘ・ベルゴリア様の好演、につきるでしょう・・・・。とっても澄んだ瞳が魅力的です。 (かなり毛深いですが・・・)ちなみに、ダビドのルームメイトのマッチョな男を演じたフランシスコ・ガトルノは、この映画のお陰でメキシコに渡り売れっ子アイドルとなり、最近ではtelenovela(いわゆるソープオペラ)に出演したりしてるみたい。 しかし この映画を見て思うのは、苦しい状況下でも決してユーモアを忘れないキューバ人は天才的!キューバ人は中南米一の言葉の魔術師なのだ。この映画、スペイン語が判れば、二倍楽しい映画とも言えます。

【監督について】

<キューバの「クロサワ」 、トマス・グティエレス・アレア監督>

1928年生まれ。ハバナ大学法学部時代にフィデル・カストロに出会い反政府学生運動に加わる。52年大学卒業後イタリアで3年間映画を学び、ガルシア・マルケスなど中南米の知識人たちと親交。59年キューバ革命後は、ICAIC(芸術映画院)設立に関わり、革命を描いた一連のドキュメンタリー映画製作に携わったのち、「La Muerte de un Burocrata」(1966) 、「Memoria de Subdesarrollo」(1968)など数々の名作を生み出す。本作品「苺とチョコレート(Fresa y Chocolate)」は、キューバ映画としては史上初めて米国アカデミー賞外国映画部門にノミネートされるなど、世界的評価をうけた。鋭い政治・社会批判は 遺作となった「Guantanamera」(1994年)まで貫かれる。1996年肺ガンにより67歳で死去。

【この映画を深めたいあなたに】

映画の原作は、脚本も手がけたセネル・パス(Senel Paz) 著の「El Lobo, El Bosque y El Hombre Nuevo」(狼と森と新しい人間)で、日本語訳は「苺とチョコレート」(野谷文昭 訳)で 集英社から 出版されています。

この映画、ちょっとだけ「蜘蛛女のキス」(ヘクトール・バベンコ監督 1985年)に似てます。マヌエル・プイグの小説を映画化したこの作品も、絶対オススメです。

POR CHIAKI


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